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1日1文、現実逃避
http://lemonporice.yu-nagi.com/ 日記・文章の練習帳。          挑戦中のお題→恋する動詞111題 。                        REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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初めて鍵シフで秘密へ行った時のことを思い出して。
 メタい。

遠くの方からカランコロンと骸骨騎士の足音が、棺から飛び起きるミイラの叫び声が、複雑に曲がりくねったこの細く狭い通路の壁に反響して聞こえてくる。
 街で声を掛けてきたパーティのリーダーに連れられて初めて墓地の地下に入ったときは、姿の見えない敵が、それもこの世のものではないモンスターが暗闇の向こうで蠢いている様に恐怖を掻きたてられたが、数時間も居るとさすがに慣れてきた。敵が現れるなり速攻で飛びかかり、あっという間に倒してしまう仲間たちの姿を見て、安心したということもある。

「さい。」
「えーっと、いたち。」
「ちょう。」
「ん~『う』かぁ、じゃあ『うさぎ』で。」
「…ぎ、ぎ…ぎょうざ!」
「ざぁ?!『さ』じゃダメ?」
「ダメダメ~」
「そんなぁ!」

 何よりも余裕の心持で全員が地面へ座り込んでの雑談が始まると、街のカフェでの友人同士の会話のような和やかな空気に恐怖はどこかへ消えてしまった。
 初めはおっかなびっくりで、仲間たちの後方から慣れない手つきで短剣を投げていた彼は、今は落ち着いた様子で棺に腰かけて作業にいそしんでいた。彼の手の中で複雑に絡み合った鉄の輪の塊がカチャカチャと音を立てている。そんな彼の隣へ、輪を抜け出してきたリーダーが腰かけた。

「どうだい、シュミレーションの方は。」
「順調。あとは、これが解けれるようになれれば完璧。」
「気負わなくていいからね。BISもいるし、ちょっとくらい失敗しても大丈夫だよ。初めてなんだし。」

 リーダーの言葉に素早く鉄の塊に走らせていた彼の指がピタリとその動きを止めた。

「冗談!失敗なんてしないさ。あんたらが走りながら進めちまうくらい、あっという間に罠も鍵も解いてやるさ。」

 頬を上気させて答えた彼の瞳にはキラキラと若い熱が輝いていた。
 隠されたダンジョンとはどんなところなのか、誰が待ち受けているのか、その先でどんな宝物が手に入るのか。…自分はそこで活躍できるのか。初めての冒険への期待が膨れ上がっている。

「おやおや、これは失礼したね。頼りにしてるよ。」

 作業を再開したまだ若葉マークのとれていない少年を、リーダーは眩しそうに眼を細めてみつめた。

 彼の手の中ですべての輪っかが解けたのと、リーダーの手の中でポータルスフィアが輝いたのは同時だった。
 おお、来たか!とパーティメンバーが立ち上がる。青白い輝きを放つそれに、ポカンと彼は目を見開いてそれを見つめいていた。

「おいで。鍵さんには先頭を務めてもらうからね。」

 リーダーに連れられて、彼は隠されたダンジョンの入口があるはずである壁の前に立った。
 みんなが見つめる中、リーダーがポータルスフィアを壁に当てた。当てた瞬間、ポータルスフィアが力強く輝き、ガコンと大きな音を立てて壁の一部が地面へと吸い込まれていった。
 
 壁の向こうには何も無かった。
 敵も、罠も、扉も、地面も、空間そのものも。テレポーターに転送されるときに見る、時空のゆがみだけをそこに感じた。
 廊下の奥から響いてくるようなモンスターの息遣いは一切聞こえてこない。この先に何が待ち受けているのか、まったくわからない。
 先ほどまでは、解らないことが楽しみであったのに、いざ目の当たりにすると、ぞわりと寒気がした。

 もしもモンスターに殺されてしまったらどうしよう。ここのBISはまだリザレクションを覚えていない。
 もしも罠をうまく解除できなかったらどうしよう。自分のせいで仲間を殺してしまうかもしれない。

 ぐるぐると嫌な妄想に息を詰まらせていた彼の肩を誰かがポンポンと叩いた。顔を上げると、リーダーがニコリと人の好い笑みを見せた。

「大丈夫、ここのことは僕がよく分かってるから。君には先頭を走ってもらうけれど、その横に僕がいるから。」
「俺たちもすぐ後ろについてるからなー!」

 前衛職の仲間も力強く武器を持ち上げて声をかけてくれた。
 仲間の強さは知っている。きっとどんな強敵にも勝ってくれる。
 自分の役目は果たして見せると、さっき宣言したとこじゃないか。

「いっしょに来てくれるかい?」
「…当たり前だろ、道を見つけるのが俺の役目だ。」

 未知への恐怖半分、期待半分。彼は冒険家への第一歩を仲間に背を押されて踏み出した。
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