1日1文、現実逃避
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日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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秘密用に鍵シフで育てた後って、どうするか育成方針に迷いますよね。
(視点がぐちゃぐちゃです、注意。)
(視点がぐちゃぐちゃです、注意。)
天井一杯まで積み上げられた木箱たちはこの倉庫内を仕切る壁であり、中身が何とも知れぬそれらが、倉庫内に迷路のように入り組んだ通路や無数の小部屋を形作っていた。部屋と言っても、そこに人の営みは感じられない。稀に、誰かの気まぐれでティーセットが転がっていたりもするが、それ以外に人の生活を感じさせるものは何もない。
閑散とした風景に、改めてここは人が長居する場所ではないのだと、気づかされる。みな用事が終わればさっさと出ていく、それだけの場所。
小部屋の一室に彼はいた。階段のように段々に置かれた箱の上、高い方の箱に両足を置き、低い方の箱の上で仰向けに横たえた上体を、腹筋を目一杯使って素早く引き上げる。胸の前で交差するように組んだ両腕にも僅かに力が入って、フルリと拳が震える。
膝頭に額が触れたら、引き上げる時とは逆にゆっくりと時間をかけて、腹筋をずっと意識して、背が木箱に触れるギリギリまで上体を倒す。力は抜かない、背は浮いたまま、そこからまたもう一度、上体を素早く引き上げる。
ゆっくり戻す。引き上げる、戻す、繰り返し。
動作に合わせて、201ッ、202ッ、と数える声が鋭く吐き出される空気と共に彼の口から流れ落ちた。ずっと休みなく筋肉を意識し続けるものだから、回数を増すごとに負荷が重くなっていく。
200台も半ばを超えたあたりで、いよいよ動作が緩慢になってきた。ぐっと歯を食いしばり、震えながら起き上がった先で額がようやく膝に着くと、はあっ、と大きく息を吐いた。そのまま力が抜けてパタンと箱の上に寝っころがってしまう。
荒くなった息の合間に、「くそっ」と彼はひとつ悪態をついた。最後の一回をカウントに含めるか否かしばらく逡巡して、否と決めた。1増えようが、目標数値には遠く及ばない。
疲労に震える指先で撫でてみた自分の腰回りは、固く張り詰めてはいるけれど、貧相だと、この程度ではまだまだいけないと、思い知らされる。
ジワリとにじみ出た汗が額を滑り、前髪を湿らせた。悔しさやら疲労やら、内側からこみあげてくるものに耐えるようにきつく目を瞑っていたが、ふわりと鼻先をくすぐる香りに、彼は目を薄く開いて小部屋の入口を流し見た。
「いつから居たんだよ。」
彼と目が合うとケブティスは、コンコン、と近くの木箱をノックした。
「今来たとこさ。今日はパズルはしない代わりにおかしなことをやってるんだな。」
盆を片手に携えたケブティスが近づいてくるのを、彼は寝ころんだまま眺めていた。ここからは中身が見えないが、盆の上から紅茶のものらしい香りが漂ってくる。
「何だって、軍学校の訓練生の真似事なんざしてるんだ。お前さんは冒険家だろう?必要な力は冒険の中で十分身についていくだろうが。」
「足りてないから、わざわざ補おうとしてるんだろ。」
「ほう。オーガの巣穴の奥底で、いい鎧でも見つけたか。」
ケブティスの瞳がギラリと輝く。その顔が何を欲しているのかを察して、彼は体を起こすと、荷物の中から取り出した袋をケブティスに差し出した。ケブティスは盆を持っていない方の片手で器用に袋を受け取る。袋の中でジャラリと硬貨の擦れ合う音がした。
「なかなかいい旅だったみたいじゃないか。」
「それなりに、な。」
ふう、と息をついて汗を拭った彼の眼前にケブティスは盆の中身を差し出した。
彼の予想通り紅茶は確かに盆の上にのっていたが、それは一杯分しか置かれていなかった。彼の予想を裏切って、いつもなら自分の分の紅茶が置かれているそこに、水の入ったガラス瓶が立っていた。ほんとうに、いつからケブティスは自分を見ていたのだろうか。全く気付かなかった、と感心しながらガラス瓶を手に取った。湯気の揺蕩う紅茶と対照的に、ガラス瓶は冷気を感じるほどひんやりとしていた。
疲れた体に冷えた水はよく滲みた。
「オーガの巣窟の奥底には、頭のいいオーガどもが研究者ごっこをしていた。精霊やモンスターを集めて、魔法や薬の研究をしていたみたいだ。まあ、所詮はオーガだし、たいした研究成果じゃなさそうだったな。間抜けな傭兵団がいたからついでに助けて、そいつらからの謝礼金も含めると、ざっと成果は--------ってところだ。」
彼の隣に腰かけて相槌を打ちながら紅茶を啜っていたケブティスは、彼が話し終わると「それじゃあ」と言って、袋の中に遠慮なく手を差し入れた。ケブティスの手がジャラジャラと硬貨を掻きまわす。
「ふんふん。おや、今回の情報料にしちゃあ多すぎるぞ。次回の予約分を足してもまだ釣りが出る。…何か他に買いたいものがあるみたいだな?」
「そのとおり。余り分は俺の悩みの相談料と、解決に当たって必要になる物資の購入費だ。」
「なるほど、わかったぞ。そろそろ次のを欲しがるころだと思ってたんだ。さあ、どっちだ、新しいパズルか、ビックリ箱か。」
得意げな顔をしてケブティスが懐から二つのそれを出してきた。ずいっと、差し出されるそれにそっと手を添えて彼は「悪いんだけど」と言って、押し戻した。
「探索能力はもういらない。」
「…何?」
途端にケブティスが片目を眇めた。
「まだマスターには届いてないだろう、どうした。」
「そうなんだけど、今のところ秘密ダンジョンは今の能力で十分対応できてるし、これ以上のばす必要はない気がするんだ。探索や鍵開けのレベルアップを図る時間を別の能力開発に当てたい。」
「別の能力?ワシはてっきりお前さんはトレジャーハンターの道を行くもんだと思っておったが。今後お前さんはどうしていくつもりなんだ。」
「…それは。」
ケブティスが訝しそうな顔をするのも彼は納得していた。確かに自分は今まで鍵開けや罠の解除、隠された秘密を暴く能力にのみ力を注ぐばかりで、それ以外のスキルは何も持っていないのだから。
だから、これから話すことにケブティスがどんな反応を返してくるのか、少し恐ろしくもあり、彼は一度言葉を切って水を含んだ。
「戦えるようになりたい。俺に合った戦い方を、教えてほしい。」
「戦い方、ねえ。」考え込むようにケブティスは顎鬚を何度か撫でた。
「武器を変えずに戦おうと考えてるなら、投擲の技術を鍛え抜けばそれなりの火力になるぞ。」
「投擲はものになるまで時間がかかる。高価で有能な装備や俺自身の基礎体力が整うまで、かなり。」
「もっと早く、技術の習得とともに力が発揮できるようなやつがいいと。ふん、それなら、」
彼は自分の横に座るケブティスの顔をじっと見つめていたはずである。ケブティスの姿が彼が瞬きをした瞬間、忽然と消えた。目を見張った彼の首筋に、ピタリと薄いものが背後から当てられた。耳元でケブティスの声がする。
「シーフギルド秘伝の技はどうだい。これなら相手は一撃で倒せるぞ。」
「アサシンになるつもりはないんだけど。」
「そうかい、そいつは残念だ。」
不満げな表情を作って首に当てられたティーカップの受け皿を指先で弾くと、ケブティスはけらけらと笑い声をあげた。
「武器は別に投擲ナイフに拘ってるつもりはない。」
「あー、だからって剣や弓を持とうなんざ考えない方がいいぞ。」
「それは分かってる。鍵を解除してすぐ攻撃に移行できるように、いちいち武器を鞘から取り出さにゃならんような隙は作りたくない。」
「よくわかってるな。となると、お前さんに合うような武器は無いってこともわかっとるようだな?」
いよいよ手詰まりな予感を感じて、彼は俯いた。ここまでは彼も予想し、そしてどうしようにもならないと気づいて落胆したのだ。自分がしたいと思っている戦闘スタイルにあった武器がどうしても思いつかない。かといって自分はただの人間であって追放天使や悪魔のような特殊能力は無いし、動物と心を通わせる方法や魔法を学ぶには年を行き過ぎている。
「やっぱり無理か。」
「まあそうじゃろう。だが、戦うすべがないとは言っとらんぞ。お前さんの速さを活かし、かつ武器の持ち替えをせずに攻撃できる武器がひとつだけあるぞ。」
ぱっと顔を上げた彼に、ケブティスは焦らすようにたっぷり間を開けてからそれは、と口を開いた。
「お前さんの手と足じゃよ。」
子供の喧嘩じゃないんだぞ。モンスターの中には岩より固いやつもいる。武器無しで殴る蹴るでそんな相手が倒せるもんか。
目を眇めた彼に、ケブティスはふふん、と得意げに鼻を鳴らした。
「武器なんてもんはな、己の体の延長にあるだけだぞ。ちょっと先が尖ってて、リーチが長くなるくらいで、相手の体を貫く力は腕の屈伸だとか足の踏ん張りだとか腰のひねり方だとか、結局体の動きで生み出されてるもんよ。クローや戦闘用グローブだとか、刃物のついた鉄製ブーツとか履けば、手足は剣と遜色ない立派な武器になるんだぞ。」
「…そんな戦い方、初めて聞いた。」
「半島の東側の田舎町では、昔っから続いてる立派な戦闘方法なんだがの。」
「そいつはすぐに習得できるのか。」
「本人の努力次第でいくらでも。少なくとも投擲よりかは早く使い物になると思うが。」
「どこで覚えられる?」
「このギルドにも武道の使い手はいるが、そうだなあ。みっちりやりたがるお前さんには、半端もんに教えてもらうよりは、道場に行った方がいいだろう。あとでワシから紹介状を書いてやる。」
「頼む。」
彼はふうとため息をついて、木箱の上に寝っころがった。安どの色が彼の表情にともっている。縋るような眼差しはどこかに消え、代わりにその赤紫の瞳が眩しいものを見るように眇められた。彼は何を回想していたのだろうか。どうにも興味が湧いた。
「ずいぶんと、思い詰めてたみたいで。」
「・・・・・・まあな。」
「転身を決意したきっかけを聞いても?」
上機嫌な様子で、ケブティスからすれば意外なほど彼は珍しく饒舌だった。
「ダンジョンに行くパーティはいつも同じメンバーだって言ったことあったか。」
「ああ、聞いた。お前さんが初めて秘密ダンジョンに行った時のメンバーだろ。だいぶ長い付き合いになるっていう。」
「そいつらに、このメンバーで一緒にギルドを立ち上げないか、って誘われたんだ。」
「ほう!それは目出度いな!ついにお前さんにも仲間ができるのか!」
ケブティスが心底嬉しそうな顔をして、彼の肩を叩いた。常々、1人で倉庫に入り浸る自分に「はやく仲間を作りなさい」と事あるごとに行ってきた人である、喜んでくれるだろうとは思っていた。けど、今はこの嬉しがってくれるのが少し怖い。
「みんな乗り気で、ギルドを作ることに決まったんだけど、」
「ほうほう!」
「俺はその誘い、断ったんだ。」
「……はあ?!なんでだ。」
「今の俺じゃあ、足手まといになるだけだから。探索能力なんてギルド戦や狩りでは何にも役に立たない。ギルドになるなら、戦えなきゃ。だから、一緒に戦える技術を身に着けるまでは、まだ仲間にはなれないって言ったんだ。」
「前々からおもっとったが、お前さんって、めんどくさいやつだ。馬鹿見たいに生真面目な上に、本当に馬鹿ときたもんだ。」
やれやれとケブティスが肩を落とした。どうせ一生モノの付き合いになるわけでもなし、これからの長い人生でいくつも出会いはあるのだ。重く考えすぎて、経験の機会を失う方がもったいない。面倒なこと考えずに、気が合うなら仲間になってみればいいのにと、ケブティスは気軽に考えている。
しかし、彼にとってしてみれば、こればっかりはどうしようもない。昔なじみの彼らと仲間になるには今の自分ではだめだと彼は痛感している。ギルド結成以前にも、旅や狩りを一緒にしないかと誘われていたが、自分が探索能力以外で役に立てないと彼はわかっていたからずっと断り続けていた。彼らと関係を持つのは秘密ダンジョンの攻略のときだけ、彼が自分が役に立てると確信を持てるときだけである。
そんな唯一の時ですら、自分は彼らの重りになっている。目の前で仲間が瀕死の傷を負っていく中、後方でちまちまとなんの足しにもならない攻撃しかできない非力な自分を恨む悔しさを知っている。解錠した扉の向こうから現れたモンスターの攻撃から自分を庇って傷を負う仲間の苦痛に歪む表情を、何度も見てきた。
すべては自分が弱いから。こんな自分が仲間になってよいはずがない。そのくせ美味しいとこはきっちりいただいく、こんな寄生虫のような生き方は終わりにしたい。
本当はその手をとりたい。仲間が欲しい。今度は後ろに立ってるばかりでなくて、心から山分けした宝物に喜びの声をあげられるように、同じ痛みを共有したい。
そのために俺は強くならねば。
彼はひょいと体を起こした。
「それで、その道場はどこにあるんだ?」
「しばらくはまあ待て。ワシが紹介状を書いてあっちから了承の返事が来るまでは、」
「早くその紹介状とやらを書いてくれよ。そしたら直接俺が手渡しに行く。返事が来てから出発するより、そっちの方がずっと早いだろう?」
「いやあ、そういうわけには…おい!」
「宿屋の荷物まとめてくるから、その間に手紙を書いといてくれよ。」
ケブティスが止める間もなく、彼はさっそうと箱の向こうに姿を消した。
我がままなお願いを押し付けられた気がするが、いつ振りかに見た無邪気な彼の様子に、まあいいか、と気持ちが削がれた。
あの様子では彼はすぐに戻ってきそうだ。早いとこ紹介状を書いてやろうと、空になった瓶とティーカップを盆の上にのせ、ケブティスは小部屋を後にする。
しんと静まり返ったその空間に、道場から戻ってくるころには、もう彼はこの部屋に入り浸ることは無いのだろうと、ケブティスは気づいた。
最後に自慢の紅茶を飲ませてやりたい、と思い立って、湯を沸かすならなおさら早く自分の部屋に戻らねば、とケブティスは小走りに通路を急いだ。
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強くなることを望む。
パズルをとくとアンロックドアが、ビックリ箱をとくとトラップ解除のスキルアップ!みたいな。
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