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1日1文、現実逃避
http://lemonporice.yu-nagi.com/ 日記・文章の練習帳。          挑戦中のお題→恋する動詞111題 。                        REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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 WIZ×サマナー
 魔術師たちの髪が長い理由。


 
 あ、とサマナーは声を上げた。発見と閃きを含んだ、明るい調子で跳ねた感嘆符につられて、資料の山を熱心に眺めていたWIZが、瞳だけを持ち上げてこちらを見上げてくる。彼の焦点は間違いなくサマナーのそれと結びついているはずなのに、遮るもののせいで確かではない。緑の双眸を遮るブラウンは、なおのことざんばらに見えて、サマナーは思わず指先を伸ばしていた。彼の胸のあたりまで緩やかに垂れていた前髪たちは柔らかで、笛で指揮を執る時のようなサマナーの指の動きに従順に従う。すい、と押し上げられ耳にかけられた髪は、けれど量の多さに留まりきれず、ぱらぱらと崩れ始め、最後はどさりと、彼の顔を再び覆った。

 戻ってきた前髪は彼の睫毛を擽ったのだろう。ん、と小さく声を漏らし、眉間にしわを寄せながら、何度も目を瞬かせる。それはサマナーが幾度となく見てきた彼の"癖"によく似ていて、

「ああ、やっぱりそうなんだ」

と、声に出して確信した。
 WIZは顎を上げると、慣れた手つきで左右に割るように長い前髪を面前からどかした。

「何がやっぱりなんだい?」
「あのね、わたしずーっと勘違いしてたって気づいたの!こーするのって癖じゃなかったんだね。」

 考え事をしているときの彼は、時折難しい表情で目をぱちぱちとさせる。それが彼の"癖"なんだろうと思っていた。
 はらり、と落ちてきた前髪の一房を、彼がしたようにもっと奥の方へ押しやった。

「これじゃあまた目に入っちゃうよ。邪魔にならないように、髪結んであげる!」

 ひゅるり。小さな風が傍らで巻き起こる。主人の意思を汲んだウェンディがサマナーの手中に櫛を落としていった。鳥類に似た嘴に、ロマの民族衣装を連想させるミサンガを咥えている。

「ありがとう。髪を結ぶのは初めてかもしれないな。せっかくだ、お願いしてみようかな。」
「任せて!」

 胸を張ったサマナーの頭を一つ撫でて、WIZは再び資料に目を通し始めた。
 俯いた彼の顔に滑り落ちていく前髪を受け止めて、サマナーはさっそく櫛を通し、そしてすぐに櫛をウェンディに返すことになった。何度切り込む場所を変えても、櫛はすぐに絡みに飲み込まれ、すすみそうにない。櫛の代わりに、指を差し込む。ゆっくりと慎重に、指で縺れのひとつひとつを丁寧にほどいていく。緩やかなウェーブと穏やかな色味に、ふわりと柔らかな手触りを想像していたけれど、意外に一本一本が太く固くしっかりとした髪質だと知る。触れ心地の良さが、サマナーの愛する赤毛の神獣を彷彿とさせた。
 紙を捲る音がいつの間にか止まっていた。伺い見れば、WIZは心地よさそうに目を閉じている。ますます、神獣たちの毛並みを撫でたときのことを思い出させる。労わるように、指先で優しく優しく触れた。
 WIZの髪は腰ほどの長さまである。毛先までようやく辿り着いて、ふと、思いついた疑問をサマナーは口にした。

「ねえ、長い髪にはどんな意味があるの?」

 どんな疑問にも明瞭でわかりやすく答えてくれる、WIZはサマナーにとって冒険家の師匠だった。そんな彼が返答ではなく、小さく笑ったものだから、再びサマナーはWIZの顔を覗き込んだ。羽毛が首筋に触れたみたいに笑い声を立てたWIZは「ああごめんね」と笑みを浮かべた。

「いや、君らしいなあ、と思っただけさ。大抵の人はみんな、髪を切りなよって、すすめてくるもんだから。初めからそんな風に尋ねてきたのは、君だけだからね。」

 確かに、ただ横着しているだけならば、切るべきだ、とサマナーも進言していたに違いない。
 サマナーですら髪には段やすかしを入れてある。WIZの髪はまるで一度も切られたことが無いようで、きっとこの予想は正しい。調節されていない髪はずしりと重く、そうでなくても時折目に痛みを走らせる。
 けれど、それって、なんだか。

「なんだか貴方らしくないけど、だからこそ、何か理由があるんだろうなって。」

 道端に転がる石にすら、山を雨風が削り川を流れ誰かのつま先に弾かれて、今そこにあるのだから、何かしらの意味があるとWIZは言った。サマナーから見ればただの風景の一部でも、WIZから見ればその石ころ一つがギルド戦争の作戦の判断材料になる。組織の上に立つ、非常に合理的な人。この髪にも何か意味が込められているに違いなかった。

「…君は本当に、いや、さすが、神獣と共感できるほどだもんなあ。」

 つぶやかられたWIZの言葉は聞きのがすほどに不明瞭だったので、聞かせるための言葉ではなかったのだろう、と判断してサマナーは最後の仕上げに取り掛かった。何色もの布地を編んで作られたミサンガはきゅっと絞れば布地が伸びて固くなる。軽めに束ねた髪を解けてしまわぬよう固く結んだ。改めて見てみれば、本当にWIZの髪は長い。
 サマナーに向けられたはっきりとした面は、いつもの先生の顔に、何か別のものを含んでいた。

「これはね、魔術師の習慣なんだ。髪や髭の長さは、その人の年齢を表す指標になる。少しでも年かさに見えるように髪や髭を伸ばしっぱなしにするんだよ。」
「どうしてお年寄りに見せたがるの?」
「魔術とは、知識と経験が積み重なるほど、実力が上がるからね。修練にかけられる時間は年齢と比例しているから、年上ほど実力があるとみなされて、尊ばれるんだ。僕たち魔術師は見栄っ張りな生き物だから、こんなことが習慣になってるんだ。…ちょっと、古い習慣だなあ、と僕も思うけどね。」

 言葉じりを濁した彼は、合理的だからこそ、気付いた時には身に着いてしまっている習慣というものに、彼は心と行動の間に矛盾を感じていたのかもしれない。「うーん」とサマナーは首をひねる。

「それって見栄っ張りなのかな?」
「見栄だとも。無駄なことをしてるんだから。」
「そうかなあ。私の村でも、そういう風習あるよ。私はこれだけ召喚できるんだぞーって、言うために、何でもない日もみんな召喚獣を強化して連れ歩くし、タトゥーや鉱石を見せびらかすもの。」

 あるいは、闘技場で戦士が普段よりも重く大きな剣や鎧を選ぶような、街歩きで女性が鮮やかな流行の服を身に着けるような。誰もがもつ程度の"見栄っ張り"だとサマナーは感じた。

「それってきっと、普通のことじゃないかな。」

 顎に手を当ててWIZは考えるそぶりを見せた。彼の顔にブラウンがかかることは今はない。考え事をする時は俯く、こっちが正しく彼の癖のようだ。人差し指の腹で何往復も撫でられている彼の顎に、サマナーは触れた。つー、と辿ったそこには人肌の柔らかさのみがある。

「WIZは髭が生えてないんだね。けど、私はこのまま、生えないでいてほしいかも!ちくちくするのは、ちょっとやだなあ。」

 つるりとした彼の顎に、すりすりと頬を触れさせた。髪も髭も、遮るものは無い。直接触れた肌と肌は互いの熱が伝わってきて、魔術師にとって見栄というものがいかに重要なのかよくわかってはいたけれど、やはりこのままの彼でいてほしいと願ってしまう。

「ありがとう。やっぱり君は本当にすごい子だね。」

 ぎゅっと抱きしめられる。耳に触れる彼の声も、背中に回された手のひらの熱も、この身を包む彼の存在がどれもあたたかくて、サマナーは嬉しそうな笑い声を立てた。



―――――――――
(WIZがサマナーに)惚れる
このWIZはアラサーかな。髭が無いせいで、実年齢より若く見られがちだったのが、コンプレックスだったりした。(サマナーのおかげで解決済み)
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