1日1文、現実逃避
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日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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武道家(ライ)+ランサー(カーネリアン)
空気の読めない男と男勝りな女。二人がワイン飲んでるだけ。
カップルじゃないんだけど、少しそういう表現があります。
武道家にやさしくない展開があったりして、このカップル好きな人は閲覧注意です。
どうして私の書く文章は無駄に長くなるのか。
空気の読めない男と男勝りな女。二人がワイン飲んでるだけ。
カップルじゃないんだけど、少しそういう表現があります。
武道家にやさしくない展開があったりして、このカップル好きな人は閲覧注意です。
どうして私の書く文章は無駄に長くなるのか。
そういえば昨日の夕飯どきに「そろそろお酒が底をつきそうですね。」とレークが呟いていたなあ、と、酒瓶を模した木の看板が風にキイキイと音を立てるのを見上げて、ライは思い出していた。
率先して雑務をこなしてくれるからといって、なんでもかんでも新人に任せっきりのこの状況を、そろそろ忍びないと思っていたところだった。市民からの依頼をこなした帰り道、さいわい懐は温かい。たまには先輩らしいことをしようじゃないか、そう思い立ったライは意気揚々と酒屋の戸を開けた。
ビール樽をひとつ。注文をとって提示された価格がやはり予想の範囲内に収まっているのを見て、少し気が大きくなっていたのかもしれない。ふと、カウンターのすぐそばにワインの瓶が積まれているのが目についた。たっぷりと注ぎ込まれた赤の液体に半透明の瓶の表面が黒く艶やかに輝いていた。白のラベルにシンプルな達筆で名称が書かれている。その飾らない様子から、辛そうな酒だ、と直感した。ライは辛い酒が好みだった。たまにはビールの爽快な喉越しではなくて、赤ワインの深い渋みを楽しんでみるのもいいかもしれない。じんわりと舌の奥に、いつか飲んだブドウの味が広がった気がした。
「お客さん、それが気になりますか。こいつは昨日仕入れたばっかのアウグスタの新作でしてね。私も試飲させてもらったんですがねえ、昨年の葡萄は実りがよかったせいか、深いコクと香りが楽しめる、文句なしの一級品に仕上がってますよ。ええ、もうすぐヴィンテージチャートが発表されますが、まちがいなくこれは高い評価がされるでしょうね。…だからこんなに値が張るんだろうって?いやいや、まだ星のつけられてない今だからこそ、この値段ですんでるんですよ。」
今がお買い得ですよ。元より緩みかけていた財布の紐は、目敏い店主の一言で、あっさりと抜き取られたのだった。
*************
決して安くはない酒だ。まずは一人で楽しみたい。美味かったらほかの誰かと、例えばいつも世話になってるレークに杯をすすめてみよう。
一階から人の気配が消えたのを見計らって、こそこそと、そしてうきうきと、台所に侵入したライは晩酌の準備を始めた。つまみを盛った皿を居間のテーブルにのせれば、いよいよ主役の登場だ。小気味よい音を立ててコルクが外れると、ふわりと芳醇な香りが立ち昇った。一人きりの晩酌のために、夕食ではビールは我慢した。トクトクとグラスの内を静かに跳ねるワインの音は、期待に早打つ自分の心音と似ている。蝋燭の灯りの中で、キラキラと波打つ赤色に誘われるように、ライはグラスを傾けた。
ん?と、疑問の声が上がった。
もう一口。今度は口づけた瞬間から、眉根にぐっと皺が寄った。
想定していたよりずっと爽やかなブドウの香りに、渋み以上の甘さ、のど越しも滑らかで、まさかブドウジュースかと疑ったが、胃が熱くなるのを感じて間違いなく酒なのだと知る。
シックなラベルを見て、はあ、と大きなため息が漏れた。ラベルに騙された、まさかこんなに甘口だなんて。
こんなジュースのような酒とも言えないような代物を、人にすすめるのは憚られた。かと言って、排水溝に流してしまうには、懐から出て行ったゴールドの枚数が多すぎる。仕方ない、と呟いて、ぐっとグラスを呷った。口内いっぱいに広がる甘さ。口直しにつまみを口に放り込んで、ライは舌を出した。苦い酒を想定して用意されたつまみは、どれも香辛料のきつめのやつばかりだ。ガタガタの組み合わせの悪さに、しかしやはりこの高価な酒を捨てる気にもなれず、ライはどうしたもんかと途方に暮れた。
うーん、と唸り声を上げるライの耳に、階段を下りてくる足音が聞こえてきた。隠れて酒を飲んでいたことを思い出したが、こんな酒なら今更隠す必要もないと開き直って、台所の扉が開かれるのをライは大人しく待った。
「あー!一人酒なんてずるいぞ!」
背が高く、刈り取られたばかりの芝のような短な毛をツンツンさせている髪型、男物のよれたシャツの裾からぼりぼりと腹を掻くその人は、カーネリアンだった。扉を開けた時には確かに眠そうな顔をしていた彼女は、テーブルの酒に気付くなり、ぱっと目を開けて素早いステップで突進してきた。アルコールで見間違えていたわけでなければ、突進の瞬間分身していたような気もする。次の展開を察したライが手放したグラスは、空中に放り出されてすぐカーネリアンの手の中に収まっていた。衝撃にゆらん、と零れそうなほど揺れているグラスの中身をカーネリアンは一息に呷った。
「うわ、ずいぶんと甘口だな!ワインじゃないみたいだ。お前、こんな可愛らしい酒が好きだったか?」
「ぜんっぜんだ。俺には甘すぎて飲めたもんじゃない。」
「あらま。」
少し溢れたらしい、口の端をグイと親指で拭ったカーネリアンが目を丸くした。酒が入っているせいか、相手が大抵の悩み事は勢いで吹き飛ばすタイプのカーネリアンだからか、つい愚痴が出そうになる。ライを背もたれに寄りかかって天井を仰ぎ見た。
「こんな酒買わなければフルポーションが何本買えたことか。」
「ライ。グチグチするなんて熱血漢のお前らしくないぞ!アタシにいい考えがある、ちょっと待ってろ!」
バタバタと大きな足音を立てて、彼女は台所に突進していった。本当に男より男らしいやつだな、と、ライはその背中を見送った。
戻ってきた彼女はワイングラスをもう一本とロックに砕かれた氷を持ってきた。空のグラスに氷を入れてワインを注ぐ。自分のグラスの中にも容赦なく氷をどぼどぼと入れられて、ライはギョッとした。
「おいおい、ワインに氷なんて・・・」
「そう言わずに飲んでみろ。マシになってるぞ。」
ワイングラスの中に氷、真っ赤な液体の中に突出する透明な物体。不自然なその酒を、疑念を抱きつつライは飲み込んだ。
キツイくらいに爽やかすぎた香りが冷えたせいか抑えられ、甘い味も薄まっている。まだ甘いが飲めないこともない。
「確かにマシだ。」
「だろう?」
感心したようにライが呟くと、どうだ見たことかと、カーネリアンが大きく口を開けて笑った。
「捨てようにも捨てがたくて困っとったんだが、これなら飲み切れそうだ。」
「せっかくのいい酒が勿体ないな。女の子はこういうの好きなんだぞ。」
それはいいことを聞いた。ギルドには、酒の好きな成人女性が一人いるじゃないか。
「じゃあ、セシルにでもやるか。」
「そこはアタシにくれよ!」
「なんで?ああ、そうか、お前も女だったか!」
半分本気、半分冗談でそんなことを言ったライに、カーネリアンはわざとらしく腰をくゆらせ、うふん、と笑ってにじり寄ってきた。
「あらひどぉい、」
「あははっ。やめろ、気持ち悪い。」
笑って押しのければ、カーネリアンもニヒヒヒッと下品な笑い声を立てて飛び退いた。
「そうだ!つまみもちゃんと合うものを選べば、もっと飲みやすくなるだろう。」
再び彼女は台所に消えていった。戻ってきた彼女は、また意外なものを持ってきた。板チョコのようだ。彼女は手で砕くと、やはり許可もなくライの口の中に放り込んできた。どうやらビターチョコのようだ。
いくらビターだからって、板チョコなんか合うものかと。疑念が浮かぶが、先の例もあって期待する気持ちもあった。舌の上でとろけたそれに、冷えたワインを飲み込むと、瞬時に固まった。期待は裏切られ、妙な舌触りに閉口する。
「これ本当に合うのか?」
「いーや、アタシが好きなだけだ。この組み合わせは嫌いだって言うやつのが多いかもな!」
変わりもんだ。
微妙な酒に、微妙な組み合わせのつまみ。それを大喜びで食す男女(おとこおんな)。
カーネリアンはこのまま晩酌を始めるつもりらしい。付き合う気持ちで、ライも飲みやすくなったワインを飲み続けることにした。
つまみは無しで飲み続けよう、とライは決めていたが、カーネリアンの方はライにチョコを食べさせることが気に入ったらしい。会話が一休みするたび、思い出しように自分が食す傍ら、ライの口の中に放り込んでくる。
なんだか餌を与えられるひな鳥の気分で、しかも大きな欠片を唐突に入れてくるものだから、話の腰が折れるので、ライとしては面白くない。何度目かの餌やりに、ついに自分で食べるといって、差し出されたチョコの欠片を自分の指で摘まんだ。
ふと、妙な違和感を感じて、ライは思ったままを口にした。
「チョコ小さくなってないか?」
「意外と酔ってるなライ!そんな早くにチョコが溶けるはずないだろう。」
「…だよな。」
酔ってる、酔ってる、とカーネリアンは一通りはしゃいだ後、また話を再開した。ライは相槌を打ちながら、ぼんやりと手渡されたばかりのチョコを見つめる。さっきまで大きく見えたのに、自分が持つと同じ欠片が小さく見えた。隣でカーネリアンが新しい欠片を砕いているのを見て、ああ、そうか、とライは納得した。ライの指よりもカーネリアンの指はずっと細かったのだ。溶けたチョコが爪の上に流れたのを見て、慌てて口に放り込んだ。
ゆっくりと溶けていくチョコの甘さを転がしながら、そういえばコイツは女だったと、当たり前のことを思い出した。カーネリアンの性別が女だということを忘れていたわけではない。ただ、そういう目で、”女”として見たことが無かったのだ。出会った時からカーネリアンはカーネリアンだった。男のような口調や見た目、周囲を巻き込んで振り回す破天荒な性格。始めからライのカーネリアンに向ける意識は同性の友人に対するものと同じだった。
カーネリアンってとっても綺麗な人だよね。
そう言ってたのは誰だったか。確かによくよく見てみれば、綺麗な顔をしている。顔だけじゃない、手足は長いし形もいい、胸だって決して小さくない。
どうして男の真似をしているのだろう、相当な美人だってのに。
いつも、木製のジョッキを片手に大口開けて笑っている姿を見慣れているはずなのに、持ち手の細いガラスのグラスを傾ける様が妙に似合う。蝋燭の灯りを反射する彼女の濡れた唇が酷く淫靡に見えて、ライはすいと目を外した。
ああ、いけない。ずいぶんと自分は酔っているらしい。
チョコの甘さが際立ってワインの甘みを感じない。かわりに後味にうっすらと葡萄の香りの渋みを感じた。合わないと感じたはずなのに、何か癖になる。
たまには変わりもんも食べたくなるもんだ。そう思えば、急に空腹感を感じた。綺麗な指先が砕くそのチョコを早く口の中に入れてほしい。
「お前さん、綺麗な指してるよな。」
「発情すんな。」
「しとらんわ。」
彼女の指先に溶けたチョコがついている。あのチョコはもっと美味そうだ。もしも、この指をひょいと口に含んでみたなら、女の顔を見れるのだろうか。ふと、そんな考えが頭をよぎった。
ゾッとする寒気さと、口内を襲った衝撃に、ウィザードのチリングタッチをくらったのかと思った。
「うげっごほっ!」
口の中一杯に氷が突っ込まれていた。苦しくて冷たくて、思わず噎せ返る。冷えた頭で、ライは自分がカーネリアンの手首を握っていたことに、それが振り払われてから初めて気付いた。理解が追い付かないまま、二度目の衝撃がライの胸倉に走る。すぐ目の前に、ライを掴みあげて引き寄せたカーネリアンの顔が迫っていた。男前なその顔に、氷のような鋭利な冷たさが満ちている。
「二度とそんな目で見るんじゃない。」
ぱっと手を離されて、茫然としたままのライを椅子が慌てたような音を立てて受け止めた。
「酔っぱらいのライくんは、早く寝ろよー。」
後ろ手に手を振りながら去っていくカーネリアンの姿が扉の向こうに消えていく。残されたのは空の瓶と飲みかけのグラス、溶けかけたチョコの欠片、転がった氷たち。
椅子にぐったりともたれ掛って、ぐらぐらと眩暈を起こしている頭を押さえるように目を覆う。回り続ける頭では自分に何が起こったのか、自分は何をしようとしていたのか、推測しようにも無理がある。
ただ、どうやらドジを踏んだらしいと、それだけは分かった。
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