1日1文、現実逃避
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日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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子供のころは、絵本が好きだった。
REDSTONEの伝説にまつわるいくつもの物語を目を輝かせて何度も読み返していたのを覚えている。
REDSTONEの力で人間を虐げはじめた凶悪な悪魔と対峙する勇猛果敢な若き戦士、REDSTONEの瞳をもつドラゴンに攫われた姫君を取り戻すため長い旅路に出る騎士、大陸の各地でREDSTONEによって引き起こされる数々の禍に立ち向かう冒険家。正義のために剣を握ることを子どもの内に刷り込もうという画策があったらしく、お話の主人公の多くは正義を掲げる勇敢な剣士の姿が多かった。
両親の思惑通り、俺は物語の主人公たちに憧れ、剣の稽古に積極的に参加するようになった。いつかお前もこの話の主人公のように立派な騎士になるのだと、騎士の絵本を指さして父は言った。けれど、俺は両親の思惑にぴったり当てはまって乗れていたわけじゃなかった。俺が一番好きだったのは、その隣に置いてある冒険家のお話だった。国のためだけではなく、恋人のためでもなく、名前も知らない誰かのために辺境の村にまで助けに向かうような、世界中の人のために剣を振るう主人公に憧れた。そして、単純に絵が一番好きだった。絵本のページをめくるたびに、美しい世界が次々と現れる。鮮やかな色彩のその場所に、自分がもしも立っていたらと想像して胸を躍らせた。
冒険家へあこがれる思いは、幼かった俺の純粋な心に深く根付き、魂のもっとも近い場所で色鉛筆の花を咲かせた。その花は俺が学校を卒業し騎士になる時になっても、枯れることなく鮮やかな色を保ちつづけていた。
国のために戦うことは立派なことだが、砂漠の美しいオアシスも、地平線の彼方までつづく深い森も、不可思議な造形をした異国の街並みも見ることなく、俺の一生は終わるのだと、俺がせいぜい知れるのは夕日の美しさくらいだと、そう思うとどうにも煮え切らなかった。
だから騎士になる日の前夜、俺は両親に打ち明けたのだ。世界をどうしても見に行きたいのだと、冒険家になりたいと。あの日受けた痛みを、今もよく覚えている。床に倒れた俺に父は目を怒りに燃やしながら言ったのだ。遊びのために、お前はこの伝統ある我が血族の剣を振るうつもりか。冒険家など、自分の欲のためにモンスターの穴倉を荒らし、金を貪るだけの野蛮な屑どもだ。お前が今そんなことを言いだしたのは、明日には家督を継いで騎士になるという目の前にある使命から一時的に逃れたいと思っているからだけだと。
現実と向き合えと、最後に怒鳴りつけられて、父の言う通りかもしれないと納得した。物語の中に居たような世界を守る冒険家なんて存在しない。その時になってようやく俺の中にあった花は枯れたのだ。まるで一時の逃避のためだという言葉を肯定するように、あっという間に花弁は散ったのだ。
そうして俺は騎士となった。家族は俺が共和国の刺繍が入ったマントを羽織り、父と並んで立つと喜んでくれた。家族の喜ぶ顔や、務めを果たして市民から感謝の言葉をいただくたび、これでよかったのだと肯定された気になっていた。
まだ根が残っていたと気づいたのは、それからずいぶんと経ってからだった。
騎士団よりも冒険家の方がずっと頼りになる。
ある日、市民の口からそんな言葉を投げかけられた。どういうことかと尋ねれば、騎士団が断った依頼を冒険家が代わりに成し遂げてくれたと言った。行方不明だった父を、森の奥から探し出してくれたのだと。衝撃だった。調べてみれば、冒険家が市民からの依頼を受けることは珍しい話ではないのだと知った。一方で、騎士団では国がらみの大多数の人を助けるための仕事が多すぎて、少数の人にまで手が回っていない現状も。
国が救いきれなかった人の手をとる、その人たちのためにモンスターと対峙する、そういう冒険家の在り方もあるのだと、俺は初めて知ったのだ。
とたんにそれまで有意義だった騎士という職が狭く感じられた。騎士の手を伸ばせる範囲は国の中まで、それより外には出られないし、届いているとおもっていた内側にまで穴がある。
俺は再び冒険家になることを決意した。
また強く反発すると思っていた父は、俺の話をじっくり聞くと、すんなりと認めてくれた。
ただひとつ、誓いを守ることを条件に。
自分のためでなく、誰かのための剣であり続けること。
それが父が出してきた条件だった。
今俺は、絵本の中の冒険家と同じ、鮮やかな景色の中に立つため、彼の背中を追いかけている。
REDSTONEの伝説にまつわるいくつもの物語を目を輝かせて何度も読み返していたのを覚えている。
REDSTONEの力で人間を虐げはじめた凶悪な悪魔と対峙する勇猛果敢な若き戦士、REDSTONEの瞳をもつドラゴンに攫われた姫君を取り戻すため長い旅路に出る騎士、大陸の各地でREDSTONEによって引き起こされる数々の禍に立ち向かう冒険家。正義のために剣を握ることを子どもの内に刷り込もうという画策があったらしく、お話の主人公の多くは正義を掲げる勇敢な剣士の姿が多かった。
両親の思惑通り、俺は物語の主人公たちに憧れ、剣の稽古に積極的に参加するようになった。いつかお前もこの話の主人公のように立派な騎士になるのだと、騎士の絵本を指さして父は言った。けれど、俺は両親の思惑にぴったり当てはまって乗れていたわけじゃなかった。俺が一番好きだったのは、その隣に置いてある冒険家のお話だった。国のためだけではなく、恋人のためでもなく、名前も知らない誰かのために辺境の村にまで助けに向かうような、世界中の人のために剣を振るう主人公に憧れた。そして、単純に絵が一番好きだった。絵本のページをめくるたびに、美しい世界が次々と現れる。鮮やかな色彩のその場所に、自分がもしも立っていたらと想像して胸を躍らせた。
冒険家へあこがれる思いは、幼かった俺の純粋な心に深く根付き、魂のもっとも近い場所で色鉛筆の花を咲かせた。その花は俺が学校を卒業し騎士になる時になっても、枯れることなく鮮やかな色を保ちつづけていた。
国のために戦うことは立派なことだが、砂漠の美しいオアシスも、地平線の彼方までつづく深い森も、不可思議な造形をした異国の街並みも見ることなく、俺の一生は終わるのだと、俺がせいぜい知れるのは夕日の美しさくらいだと、そう思うとどうにも煮え切らなかった。
だから騎士になる日の前夜、俺は両親に打ち明けたのだ。世界をどうしても見に行きたいのだと、冒険家になりたいと。あの日受けた痛みを、今もよく覚えている。床に倒れた俺に父は目を怒りに燃やしながら言ったのだ。遊びのために、お前はこの伝統ある我が血族の剣を振るうつもりか。冒険家など、自分の欲のためにモンスターの穴倉を荒らし、金を貪るだけの野蛮な屑どもだ。お前が今そんなことを言いだしたのは、明日には家督を継いで騎士になるという目の前にある使命から一時的に逃れたいと思っているからだけだと。
現実と向き合えと、最後に怒鳴りつけられて、父の言う通りかもしれないと納得した。物語の中に居たような世界を守る冒険家なんて存在しない。その時になってようやく俺の中にあった花は枯れたのだ。まるで一時の逃避のためだという言葉を肯定するように、あっという間に花弁は散ったのだ。
そうして俺は騎士となった。家族は俺が共和国の刺繍が入ったマントを羽織り、父と並んで立つと喜んでくれた。家族の喜ぶ顔や、務めを果たして市民から感謝の言葉をいただくたび、これでよかったのだと肯定された気になっていた。
まだ根が残っていたと気づいたのは、それからずいぶんと経ってからだった。
騎士団よりも冒険家の方がずっと頼りになる。
ある日、市民の口からそんな言葉を投げかけられた。どういうことかと尋ねれば、騎士団が断った依頼を冒険家が代わりに成し遂げてくれたと言った。行方不明だった父を、森の奥から探し出してくれたのだと。衝撃だった。調べてみれば、冒険家が市民からの依頼を受けることは珍しい話ではないのだと知った。一方で、騎士団では国がらみの大多数の人を助けるための仕事が多すぎて、少数の人にまで手が回っていない現状も。
国が救いきれなかった人の手をとる、その人たちのためにモンスターと対峙する、そういう冒険家の在り方もあるのだと、俺は初めて知ったのだ。
とたんにそれまで有意義だった騎士という職が狭く感じられた。騎士の手を伸ばせる範囲は国の中まで、それより外には出られないし、届いているとおもっていた内側にまで穴がある。
俺は再び冒険家になることを決意した。
また強く反発すると思っていた父は、俺の話をじっくり聞くと、すんなりと認めてくれた。
ただひとつ、誓いを守ることを条件に。
自分のためでなく、誰かのための剣であり続けること。
それが父が出してきた条件だった。
今俺は、絵本の中の冒険家と同じ、鮮やかな景色の中に立つため、彼の背中を追いかけている。
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