1日1文、現実逃避
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日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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BIS天(レーク)+シフ武(レイン)+姫(イレーネ)+ネクロ(セイラ)
旅に出るにあたって、いろいろあったレークとレイン。
ほんの少しだけ、二人が昔を思い出してるだけ。
腐ではなかったはずなんだけど、甘くしすぎたため、念のため。
旅に出るにあたって、いろいろあったレークとレイン。
ほんの少しだけ、二人が昔を思い出してるだけ。
腐ではなかったはずなんだけど、甘くしすぎたため、念のため。
レークはおもむろに立ち上がるとミトンを手にオーブンに向かっていく。時計を見ると、そろそろいい時間になっていた。イレーネとレイラが目を輝かせてレークの背に走り寄っていくのを横目に、オレは椅子を手にして背の高い食器棚の前に立った。食器棚の上、ホコリ避けに布の掛けられた籠の中から、目当てのものをいくつかとり出す。それを水洗いして水気を拭きとっていると背後から、まだかな、もういいかな、おいしそう、と少女たちが嬉しそうに囃し立てている声が聞こえた。
壁に立てかけられていた鍋敷きと先ほど洗ったケーキクーラーをテーブルの上に置いて、俺はもう一度洗い場に立った。冷暗所からアロードに出してもらっておいた氷を引っ張り出してボールに入れて、もうひとつそのボールより一回り小さなボールを中に入れる。ボールの中に生クリームの入った鉄缶と流し台にかけておいたケーキナイフと泡だて器を放りこんでテーブルに戻ると、ちょうどレークがオーブンから中身を取り出すところだった。オーブンの開けられる音とともに、部屋の中に二人の少女の歓声と焼きたての甘い匂いが充満した。
ボールを布巾の上に置いて、鉄板を取り出そうと戸棚に手を掛けたオレの背後に、とっとっとっ、と小さな足音が走り寄ってきた。服を引っ張られる感覚に目を下ろすと、イレーネがテーブルを指さして吠え立てた。
「レイン、レイン!ケーキはもう焼けましたのよ、クリームの用意はもうできていますの?」
「クリーム、からっぽ!」
「まあ!」
椅子の上に立ってテーブルに置かれたボールをカランカランと鳴らして覗き込んだセイラが上げた悲鳴に、イレーネが大きな瞳の端を釣り上げる。
イレーネがまたキィーキィーと声を上げる前に、不意打ちのように戸棚の下から取り出したばかりのロール状のクッキングシートの筒を差し出した。持たせられるように押し付けられたそれに、慌てた様子で受け取ったイレーネは開きかけた口を噤む。
「クリームより、クッキーのが先だ。オーブンがまだ熱いうちに焼くぞ。」
「ケーキは冷めるまで待たないと、飾りつけできませんからね。慌てなくても大丈夫ですよ。」
「ああ、そういうことですの。」
イレーネはまだ不満そうに口を尖らせていたが、レークの解説に納得したようだ。オレがテーブルに鉄板を置くと、イレーネはセイラのように椅子の上で立ち、いそいそと巨大な2枚の鉄板いっぱいにクッキングシートを敷き始めた。オレは鍋敷きに型ごとケーキを置いたレークにケーキナイフを渡し、自分は包丁を手に取った。小さな子供(ふたりとも実年齢は違うが今はこどもの姿なので)に包丁は任せられない。手早く、丸められた生地を切っていく。満月のように丸く白い生地が量産されていく。
「セイラ、生地をシートの上に並べていってくれないか。」
「わかった!」
手持無沙汰になりかけてオロオロし始めたセイラに声をかけると、彼女は嬉しそうに頭上の炎を揺らめかせて、いつものグローブの上に調理用の手袋をつけた手でクッキーを鉄板の上に並べ始めた。丸い生地を全て切り終わり、市松模様のクッキーを切り出し始めたころにはイレーネも加わってクッキーが隊列を組んでいく。型からスポンジケーキを外し終えたレークが、クッキー生地のいくつかの上に大粒の砂糖や、チョコやナッツの欠片を埋め込んでいった。
「できたー!」
整然と並んだクッキーの隊列を、二人の少女は目をキラキラと輝かせて眺めた。初めて自分で作ったというのだから、感動も一入だろう。それぞれ一枚ずつ、大きな鉄板を両手を広げて持ち上げて、満足そうに自分の腕の中を眺めたあと、二人の少女は顔を見合わせてひとつ笑みをこぼした。
「それじゃあ、オーブンの中に入れてきてください。熱いですから、火傷しないようにきをつけてくださいね。」
「はーい!」
足音も軽やかに、二人の少女はオーブンへと走っていた。
レークが使い終わった道具を片し始めるのを見て、オレは生クリーム作りに手をつけることにした。生クリーム作りは根気のいる作業だ。シャツの腕を捲る。砂糖と生クリームをボールに入れて、傾けたボールの底をしゃかしゃかと掻き混ぜる。背後ではレークの洗い物の音がする。急に既視感を覚えた。
「なんだか昔を思い出しますね。」
それはレークも同じだったらしい。暖かいこの空気も、甘いにおいも、はしゃぐ子供の声も、よく知っている。楽しかった、の一言で終わらせるには、あまりにも終わり方が後味の悪かった記憶。カツン、と泡だて器がボールの底を強く引っ掻いた。
「昔ってほど前でもないだろ。」
「そうですか?あのころは毎日のようにお菓子作りを手伝ってくれたのに、冒険者になってからは一度も手伝ってくれたことないじゃないですか。」
「もうイイ子ちゃんでいる必要がなくなったからな。」
目的を達成するために、取り入ろうとしただけなのに。どんな腹積もりだったのか、そのことももう知っているだろうに。
「そんな。また手伝ってくださると、私はすごく嬉しいんですが。レインは本当によく気を利かせてくれるので、すっごく作業が進むんです。」
なんでアンタは無邪気に喜んでるんだか。チラリと背後を伺い見ると、手を拭いながら心底嬉しそうに目を細めて微笑みを浮かべているんもんだから、思わず肩の力が抜けてしまう。
「アンタって本当に、馬鹿みたいにお人よしだよ。」
「馬鹿だなんて。これでも私、ちゃんと人を選んでますよ。嘘を見抜く目も、人を見る目も両方持ってますから。だてに500年人間してません。」
「…そうだったな。」
レークのことをお人よしだと言ったけど、じゃあ自分はどうだろうか。きっと昔の自分が見たら、馬鹿だと言われるに違いない。オレはレークの事を信頼してしまっているし、この関係が続くことに甘んじている。
「私はあなたのことをあなたの心をみて好きになりました。あの孤児院にいる子たちと同じ、家族だと思ってますよ。」
嘘のようなこんな言葉にも、無邪気に喜んでしまっている自分が居る。けど、自分も同じなどと、そんな甘ったるい言葉は言えない。
「お人よし。」
嘘を見抜ける男なら、これくらいでも気づけるだろう?
ふふっと、背後で小さく笑う声がした。
クリームがピンと角を立てた。コトンとテーブルに色とりどりのベリーの乗った皿が置かれた。ケーキクーラーの上にのせられたスポンジケーキは、綺麗な卵黄色の肌をふっくらとさせている。きっとこの砂糖たっぷりのクリームの甘さと、ベリーの酸味がよく合う立派なケーキになるはずだ。
レークが熱のとれたスポンジにナイフを入れていく。その時になって、ずっとオーブンの中を覗いていたセイラとイレーネがようやく戻ってきた。三者三様、あんまりにも嬉しそうな顔をするものだから、また手伝ってやってもいいか、なんて考えながら、オレは絞り袋にクリームを詰めていった。
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