1日1文、現実逃避
http://lemonporice.yu-nagi.com/
日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
BIS(レーク)×シフ(レイン)
BISの膝枕と、彼の大きな手について。
会話がいっさいない。
BISの膝枕と、彼の大きな手について。
会話がいっさいない。
ステンドグラスの薄暗い鮮やかさに彩られた教会の中にいるような、穏やかで神聖な空気があたりに満ちていた。
荘厳な祭壇も宗教画もない、あるのは柔らかなベットと暖かな色合いをした木目の壁。ここは教会ではなく、なんの変哲もない宿屋の一室である。そんな場所にレークが神の気配を運んできていた。
ベットに腰かけたレークは、聖職者の面持ちで手を胸の前で組み、神に無言で感謝の言葉を捧げていた。彼の彫の深い顔が窓から注ぎ込まれたばかりの朝日に照らされ、浅黒くも滑らかな肌に陰影がつき、彼の精悍さをより際立たせている。閉じられた彼の瞼のそばで、プラチナのまつ毛が白く光を弾いているのを見て、彼のこの顔を見たのは久しぶりだとレインは気づいた。
今日という日が訪れたことに感謝の言葉を、毎朝の聖職者の務めだ。レークは誰よりも誠実に、誰よりも長く時間をかけて言葉を天まで紡ぐ。20分も30分も行われるそれを旅の間に見なかったのは、レークが最後の不寝番をすすんで買ってでるせいで彼が起きる瞬間を見逃していたからだろう。
じっと動かないレークの顔を、レインはしげしげと見上げていたが、自然とあくびが出てしまうほど、まだまだ眠りの世界に戻れそうな心持である。ちょうどよく目の前に、枕よりも心地よさそうなものがあったので、誘われるままレインはシーツの上を移動した。
頭を乗せただけじゃ、分厚くてちょっと首が疲れるかもしれない。いいポジションを探して何度か寝返りをうって、ようやく落ち着く。薄い寝間着越しに、ぼんやりと体温を感じた。
僅かに戸惑いの色を浮かべて見下ろしてくる瞳に気づいて、レインは「お構いなく」と顔の前で手を払う動作をした。レークの膝は弾力があって暖かくて、いい寝心地だ。思わずまた、ふあ、とあくびが出てしまう。レインは再び目を閉じた。
どれくらいそうしていただろう。
ふいに、現実と眠りのふわふわと心地よい隙間を漂っていたレインの頭に、暖かくて大きなものが触れた。髪の表面を撫でるように滑る大きな手。レインが目を開くと、目尻をやさしげに綻ばせたレークと目があった。どうやら、日課は終わったらしい。神の気配はどこかに流れていってしまったようだ。
「おはようございます、レイン。」
「…はよう。よくそんなに長いこと喋ってられるな。毎朝やってて、話題が尽きないのか。」
「日常の中に幸福なことはたくさんりますから、ついつい長くなってしまうんです。今もレインのおかげで私、とっても幸せな気分ですよ。また明日の報告は長くなってしまいそうですね。」
「ふーん。」と半端な返事をしたところで、まだ眠っていたいという気持ちがむくむくと湧き出てきたので、レインは口をつぐんだ。黙って半目になってレークの顔を見上げていると、察してくれたらしい、レークはそれ以上言葉を重ねるかわりに、髪に触れている手を再び動かしはじめた。
太くて大きな指が、生え際から髪をかき上げるように地肌を撫でる。それがとても気持ちが良くて、感じ入るように目を閉じた。「猫みたいですね」とレークが小さく笑うのが聞こえた。どこまでも穏やかな気持ちで、あったかっくて、気持ちが良くて、確かにこれは幸せなのかもしれないとレインは思った。
何事かと思われてしまわないよう、こっそりと微かに指先を組んだ。十字を切る動作は、孤児院に居た時の自分の姿を頭の中で思い描いた。
感謝するだけでなく、またこんな幸福な時間が訪れますように、なんて次をおねだりしてしまったのは、我儘だったろうか。
PR