1日1文、現実逃避
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日記・文章の練習帳。
挑戦中のお題→恋する動詞111題 。
REDSTONE無名・二次・腐カテゴリーからそれぞれどうぞ。
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名称未定のシリーズものより。
リトルウィッチ(イレーネ)+タートクラフト・カイザー・ストラウス
雰囲気もの。プリンセスと国王様の関係性。
リトルウィッチ(イレーネ)+タートクラフト・カイザー・ストラウス
雰囲気もの。プリンセスと国王様の関係性。
今夜は新月だ。そう気づいたのは、星たちの煌きがいつもより強く見えたから。
月は明るすぎて空を照らしてしまうから、輝きの弱い星は月の光に飲み込まれて見えなくなってしまう。月がいないのをいいことに、いつもは控えめな星たちも今夜ははしゃぐつもりらしい。か弱い6等星までよく見えた。
真っ黒の布の上でダイヤモンドの砂をばら蒔いたような空を見上げて、ふと、イレーネはカバンの底に仕舞ったままの指輪のことを思い出した。星空と指輪が頭の中で勝手に線で結ばれ、星座のようにある男の顔が浮かび上がる。指輪についたアメジストと同じ色をした瞳。イレーネに星の話をした男。
前回、実父の元へ訪れた日もこんな星空の綺麗な夜だった。銀鳩の姿を解いてベランダに現れたイレーネの姿に、父は嫌な顔一つせず、召使に紅茶の用意をさせて部屋に招き入れた。
特に用件がある訳でもなく、単に遊びに来てくれたのだと察すると、父は嬉しそうに話の主導権を持った。イレーネを退屈させないように滑らかに語りだされた今夜の彼の話題は、彼の娘たちの自慢話、彼女の姉妹たちの話だった。存在は知っていても名前も知らない気になる姉妹たちの話に、イレーネは耳を傾けた。私の娘たちは全員かわいい、という言葉でその話は始まった。ひとつひとつ彼女たちの愛おしい部分が名前と一緒にあげられる。
曰く、指先の清らかさ、やわらかな薄桃色の頬、暖かな笑顔、ドレスの趣味。ただ、どれだけ懇切丁寧に説明されても、次々と一度限りの登場人物たちが流れるように現れては消えていくので、イレーネは姉妹の名前を覚えることは諦めた。指先の清らかさ、と聞いて思い描いた、白く細くまっすぐな美しい指や、白い肌に薄桃色をさした頬だとか、頭の中でつくりあげた像だけが残る。四肢や顔の一部に色をつけたマネキンが整然と並んでいく。長く話を聞いているうちに、いくつかは完全に消えていたかもしれない。彼が別の子の話を始める度に、新しいマネキンに色がつき、彼女たちは彼と笑い合い、共にピアノを弾き、星を見上げた。
頭の中に残ったマネキンをぐるりと見回して、イレーネはそわそわと落ち着かない気持ちになった。
私は?私の一番秀でているとこはどこですか?と、尋ねると、父は迷うそぶりも無く彼女の髪をひとふさ手に取った。
『クイーンハニーをしってるかい。上品に甘くて一級品と称されるほど良質で、まるで金粉が溶かされてるみたいに美しい色をしたはちみつさ。君の髪はまるでクイーンハニーと同じだ。滑らかで高貴な甘さを連想させるその色。僕の好きな色だよ。』
キスまで贈られて、嬉しくなかったわけではない。ただ、意外だった。イレーネの容姿を褒める人は、まっさきに宝石のような青の瞳に称賛の言葉を贈るのが常だったから。彼女自身も自分の容姿の中で一番気に入っていた部分だった。自分よりも美しい子がいるということだろうか。
『瞳が一番きれいな子は誰ですか?』
『みんな綺麗な瞳をしているよ。』
だから、一番なんて決められないよ。苦笑した彼は一言でその話題を切り上げると、再び娘たちの話をし始めた。誰が、ではなくみんなと。何色でもなんでもなく、まるで瞳の美しさを比べることに興味がないと言っているようだった。結局、瞳に色のついたマネキンは現れなかった。
カバンの底から転がり出てきた指輪は、頼りない星明りの下でもキラキラと輝きを放っていた。イレーネにとってのこの指輪と星空のように、タートクラフトの中には口に出してしまえば明確な像を作り出してしまう”色”があるのだろう。比べようもなく美しい色をした瞳。小さな星のひとつぶなんて容易く飲み込んでしまう輝き。
きっと、タートクラフトの婚約者は月のような人だったのだろう、とイレーネは予感した。
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